世界初、200GHz級の動作速度と高信頼性を両立した次世代光通信向けの受光素子を実現【NTT】
データセンタ/LAN 無料データセンタ内をつなぐ3.2Tbps級の超高速光通信の実用化へ前進
NTTは3月12日、信号速度400Gbaud級の光通信に必要となる動作速度200GHz級素子で、実用レベルの信頼性を持つ受光素子を世界で初めて実現したと発表した。
コンピュータの並列処理などを背景に、データセンタ内光通信の高速化が進んでいる。200Gbaud級以上の受光素子は、その高速化の鍵となる技術だ。その一方で、既存技術は、高速化に伴う感度劣化・信頼性低下が課題だった。今回開発した技術は、データセンタ内の光通信に適用される1310nmの波長帯で、世界最高となる速度・感度を記録した。また、データセンタのサーバ・ラック内での高温環境を想定し、200Gbaud級以上の受光素子としては前例のない、85℃動作条件で50年に相当する高い長期信頼性を実現した。本技術は、3.2Tbps超の通信速度を実現するために不可欠な、200Gbaud級から400Gbaud級の光トランシーバの基盤技術となることが期待される。
同社は「本研究開発成果は、OFC2026で、査読委員から最も高く評価されたトップスコア論文として講演する。また、今後は本成果を踏まえ、市場導入に向けた開発を進める」としている。
背景
コンピュータの並列処理や映像配信サービスの普及により、通信トラヒックは世界的に急増している。またそれらのサービスを運用するデータセンタの消費電力も急増し、社会問題となっている。消費電力を抑えながら、多くのトラヒックの処理を可能にするため、高速光通信の需要が急速に高まっている。特にコンピュータラック間などの短距離の接続では、毎秒3.2テラビット級のイーサネットが議論されている。現在は信号速度100Gbaudの送信器・受信器を用いた800Gbps級イーサネットの導入が進んでいるが、将来の3.2Tbps超級のイーサネットには200Gbaud級から400Gbaud級の信号速度が求められる。200Gbaudを上回る光通信を行うためには、それらに対応する超高速の送信器・受信器が必要となる。しかし、それらの信号品質を評価するためには、既存の100GHz級の受信器・計測器では対応できない。そのため、高速の受光素子は送信器開発に必要な計測技術として、また将来の3.2Tbps級を上回るトランシーバ実用化の基盤となる技術だ。
受光素子は高速化に伴い、サイズが縮小していく。これは、素子の静電容量を減らすことで、信号の立ち上がり・立ち下がりが速くなり、高速信号に追従しやすくなるためだ。しかしながら、光電変換領域の縮小は通信信号の品質を決定する受光感度の低下や、素子の耐久年数を示す長期信頼性の低下に繋がる。実用ネットワークでの光通信を長期間にわたって維持するためには、高速・高感度・高信頼な受光素子の実現が大きな課題となる。

図1:今回開発した受光素子技術の利用シーン
研究の成果
今回、受光感度を高める干渉型の垂直入射構造、信頼性を高める階段状の反転型構造、製造コストを低減する半導体レンズ集積技術を組み合わせた構造設計により、200GHzを超える動作速度と、長期使用に耐える信頼性を兼ね備えた受光素子を開発した。超高速受光素子として、実用レベルの長期信頼性を実証したことは、世界初の成果だ。また、本技術はデータセンタ内で使用される波長(1310nm)の光信号に対して、200GHzを上回る超高速動作における、世界最高の受光感度を達成した(感度帯域積115GHz・A/W)(図2(a))。
開発した素子は400Gbaud級の動作が期待できる動作速度を持つが、既存の測定技術では400Gbaud級信号の生成・評価が困難だ。そのため、現時点の測定技術で実施可能な最高水準である200Gbaudでのデモ実験を行った(図2(b))。実験では、受信信号波形を多数重ね合わせたアイダイヤグラムを用いて評価し、波形の目が大きく開いていることから、良好な品質の信号伝送を実証した。
受光素子の信頼性評価には、高温に加熱することで材料や構造の劣化を加速させ、故障の基準となる光入射なしでの電流(暗電流)の変化を評価した。光通信向けのTelcordia GR-468-COREの仕様に準拠し、開発した素子を無作為に25個選出して、200℃で2000時間の高温通電試験を実施した。本評価から、素子ごとのばらつき、時間に対する暗電流変化が極めて小さいことが確認できる。データセンタ向けに保証が求められる85℃の使用温度に換算すると、信頼性評価で一般的に用いられるアレニウスの式から、50年を超える耐久年数が見込める(図2(c))。



図2:(a)既存受光素子との比較、(b)高周波特性と伝送実験のデモンストレーション、(c)長期信頼性の評価結果
技術のポイント
【受光感度を高める干渉型の垂直入射構造】
受光素子の高速化と高感度化はトレードオフの関係にある。光を吸収する層を薄くすると、光で生成された電荷(キャリア)が電極に到達するまでの時間(信号の応答時間)が短くなり、高速動作が可能になる。一方で、層が薄いほど光を吸収できる量が減るため、受光感度が低下する。そのため高速通信向けでは、長い距離で光を吸収でき感度を確保しやすい導波路型が用いられてきたが、構造が複雑になりやすく信頼性の低下などが課題だった。一方で、垂直入射型は構造がシンプルで高信頼化が可能である一方、受光感度の確保が課題だった。
NTTで長年培ってきた設計技術をさらに発展させ、光学設計とバンド設計をともに最適化することで、干渉によって光を閉じ込めて感度を高める垂直入射構造を開発した(図3(a))。本技術を用いることで、波長1310nm、動作速度200GHz級の受光素子で世界最高の受光感度を達成した。
【信頼性を高める階段状の反転型構造】
動作速度の向上には受光素子の小型化が重要だ。しかしながら、小型化に伴って、劣化に弱い素子の側面を流れる暗電流の密度が増加し、故障につながることが課題だった。暗電流は素子の劣化状態を判断する代表的な指標であり、劣化とともに増加する傾向がある。一般に、初期状態の暗電流を低く抑えるほど、その後の増加も抑制されやすく、長期信頼性の向上に有利だ。
NTTでは、素子の動作領域を内部に閉じ込めて側面の暗電流を抑制する反転型構造を開発した(図3(b))。この構造は、素子を製造するための結晶成長などのプロセス難易度が極めて高くなるが、反転型構造を活用したアバランシェフォトダイオード(APD)の実用化を推進してきたNTTの技術蓄積によって実現された。一般的な受光素子の暗電流はnA(10億分の1アンペア)オーダーだが、本技術により初期状態の暗電流を世界最小級となるpA(1000分の1nA)オーダーまで低減し、高い信頼性を確立した。
【製造コストを低減する裏面への半導体レンズ集積技術】
動作速度の向上には受光素子の小型化が重要だ。高い受光感度を得るためには、受光素子の中の光電変換領域と信号光が照射される位置を合わせる必要がある。これは、トランシーバの組み立ての際に位置ずれを抑える精密な技術が必要となり、コスト面で課題があった。
NTTは、半導体の凸レンズを受光素子に作り込み、受光領域を広げることで許容度(トレランス)を高める技術を開発した。半導体を球面形状に加工するためには高いエッチング精度が必要となる。NTTでは、これまで培ってきた化合物半導体の高精度エッチング技術を活かすことで、受光素子への半導体レンズ集積を実現した(図3(c))。
本技術を用いることで、光の位置ずれ許容度を2倍以上改善し、トランシーバの組み立てを効率化・低コスト化した。

図3:本技術のポイント
今後の展開
今後NTTでは、3.2Tbps級の高速光通信の実現に向けて、本受光素子技術を活用した各種高速デバイスの開発を推進していく。また、NTTイノベーティブデバイスにて、本技術の製品化を進める予定だ。




