KPNが、オランダのデジタルサービスを強化するための次世代800G対応コア・トランスポートネットワークで、Nokiaを選択してSRv6を広域で展開
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Nokiaは12月3日(エスポー)、オランダの通信会社KPNから、800G対応IPおよび光ネットワークの導入を通じて、オランダの基幹デジタルインフラの変革を支援する企業として選定されたことを発表した。
Nokiaは「FabriQと呼ばれるオランダ全土の規模となるこの取り組みは、KPNが様々な業種の数百万人の消費者、企業、ホールセール ユーザに提供するすべての固定およびモバイルサービスの‘digital aorta’を形成し、速度の向上、耐障害性の向上、そしてKPNのエネルギー消費削減への注力を支えるものとなる」と説明している。
KPNは、モバイル、固定回線、IT、ホールセール サービスを提供するオランダの大手通信事業者だ。同社は、オランダ全土で高速ブロードバンドを広く利用できるようにすることをめざし、光ファイバネットワークを急速に拡大している。
Nokiaの最新世代FP5搭載IPルータとPSE-6ベースの光システムにより、KPNのネットワークは、現在の48Tbpsから216Tbps以上まで向上し、10Gbpsを超える顧客サービスを実現する。この新しいアーキテクチャは、回復力と自動化機能も強化し、ネットワークのセキュリティ、柔軟性、そして長期的な拡張性を向上させる。
Nokiaは「この戦略的な導入は、既存のインフラストラクチャを置き換えるものであり、KPNがオランダを代表するデジタルサービスプロバイダとしての地位を維持するという目標達成に貢献する」としている。
このプログラムは、ヨーロッパにおいてこの規模でSRv6(Segment Routing over IPv6)をブラウンフィールドで導入する初の事例となる。ネットワーク制御と物理トポロジーを切り離すことで、SRv6は自動化のシンプル化、障害処理の改善、そしてより柔軟なトラフィック管理を可能にする。Nokiaは「これらは、現代経済の基盤としてますます重要になりつつある動的なクラウドベースサービスをサポートするために不可欠だ」としている。
KPNのネットワーク担当EVPであるErik Brands氏は「FabriQはKPNのデジタルインフラの基盤です。製造業、商業不動産、スマートビルディングなど、幅広い分野で数百万ものオランダ企業とユーザをサポートしている。Nokiaをテクノロジー パートナーに選定できたことを大変嬉しく思っている。Nokiaの高性能IPおよび光プラットフォームは、今日のサービスと今後10年間のデジタル成長に必要な容量、セキュリティ、そして自動化を提供する」とコメントを出している。
Nokiaのヨーロッパ ネットワークインフラ担当SVPであるMatthieu Bourguignon氏は「このプロジェクトは、KPNとの長年にわたる関係における新たな章を刻むものであり、私たちはKPNがヨーロッパで最も先進的なコアネットワークおよびトランスポートネットワークを構築する上でサポートしている。800G対応システム、SRv6機能、そして大規模な容量アップグレードを導入することで、KPNは通信インフラの水準を引き上げながら、エネルギー効率、サービスの柔軟性、そして長期的な回復力に重点的に取り組んでいる」とコメントを出している。
FabriQネットワークは、KPNの自社クラウドまたはパブリッククラウドプロバイダを問わず、あらゆるレイヤのあらゆるサービスに、あらゆるタイプのアクセスをシームレスに接続できるよう設計されており、高度な暗号化とインテリジェントなフェイルオーバー機能が組み込まれている。また、IPコアとピアリング、メトロコア、監視と合法的傍受、光コアとサービスエッジなど、幅広いサービスをサポートし、全国の企業および卸売顧客が大容量接続とサービス品質の向上のメリットを享受できるようになる。
編集部備考
■今回のKPNによる光コア/トランスポート網の刷新は、シンプルな高速化競争というより、オランダという市場が抱える構造的な要請に応えたものとして理解すべきだろう。特に、「国内のデジタル需要の高さ」と「欧州における国際デジタル・ハブとしての戦略的役割」が、同国の通信インフラ投資を継続的に押し上げていると考えられる。
まず「国内のデジタル需要の高さ」の観点では、オランダは固定ブロードバンドおよびモバイル通信の利用レベルが欧州でも突出している。都市部では光ファイバのカバレッジが80%を超え、モバイルは5G人口カバレッジがほぼ全国規模に達する。さらに複数の測定レポートで同国の5G平均スループットは欧州上位とされ、ユーザが「高速・低遅延・高品質」を当然視する市場環境が既に成立している。高度なリモートワーク、クラウドサービスの積極的導入、無線LANと5Gを組み合わせたハイブリッド利用など、生活・業務の両面で広帯域が前提化しており、オペレータにとってネットワーク全体の余裕度を高めることは競争優位の維持に直結する。800G対応トランスポートやSRv6による柔軟制御の早期導入には、こうした“成熟したユーザ需要に応える必然性”があると言える。
次に「欧州における国際デジタル・ハブとしての戦略的位置づけ」の観点では、オランダが欧州域内外のデジタル流通における“ゲートウェイ”として機能している点が重要だ。同国には主要IX(インターネット・エクスチェンジ)や大規模データセンタが集中し、欧州諸国間の国際トラフィックが集積する構造が形成されている。ロッテルダム港やアムステルダム空港といった物流ハブに加え、デジタル領域でも国際ハブ性を強化することで、クラウド事業者やグローバル企業のリージョナル拠点が集まってきた。したがって、国内トラフィックのみならず、国際データ流通を支える大容量バックボーンの増強は同国特有の戦略的要件である。数百Tbps規模のコア増強は、単なる国内高速化ではなく、“欧州間デジタル回廊の安定運用”を担うための中核インフラ整備として位置づけられる。
総じて、オランダの通信インフラ強化は、国内に根付いたデジタル需要の成熟と、欧州全体におけるハブ国家としての責務という二層の構造に支えられている。その文脈で今回の事例を見ると、「欧州では初となる、既存ネットワーク(ブラウンフィールド)へのSRv6大規模導入」という点は、広範囲における先進技術の採用というインパクトだけでなく、中長期戦略の要請に応える選択であったという重要性も読み取れる。
■KPNがブラウンフィールド環境で大規模にSRv6を導入した事例は、光コアやトランスポート網の最新化に留まらず、世界的なネットワークアーキテクチャの転換点を象徴する動きでもある。固定・モバイル・クラウドが融合し、AIがネットワーク設計の起点となる時代において、SRv6の選択が持つ意味はこれまで以上に大きい。
まず注目すべきは、モバイル網、とりわけ5G SA以降のアーキテクチャとの整合性だ。5Gコアはもともと「IPネイティブ設計」を前提としており、ネットワークスライシングや低遅延経路制御といった高度機能はSRv6との親和性が高い。今後6Gに向けて、分散クラウド基盤やエッジコンピューティングが当たり前になる中で、固定バックボーン側がSRv6で統一的なパス制御を備える意義は大きい。固定網での全面採用は、その上に乗るモバイル網の高度化を後押しし、無線と光を跨いだ一体的制御への道を拓く。
次に、AIインフラの観点からもSRv6の導入は示唆的だ。生成AIや大規模モデルの普及により、データセンタ間を結ぶ“AIファブリック”では、東西トラフィックが急増し、アプリケーション意図に応じた経路変更が頻繁に求められる。従来のMPLSでは対応が困難だったこうした要件に対し、SRv6はステートレスかつプログラマブルであるため、ダイナミックな経路設計や意図ベース制御を柔軟に実現できる。AI時代の伝送路設計において、SRv6は重要な構成要素へと位置づけが変わりつつある。
さらに、産業DXの文脈でもSRv6は影響を及ぼす。企業はマルチクラウド接続や工場のデジタルツイン化、OTとITの統合など、アプリケーションの要件ごとにネットワーク品質を最適化するニーズを強めている。SRv6 SIDに基づく「パスをコードとして管理する」手法は、こうした自動化・インテントベース運用と極めて相性が良い。国家レベルでSRv6インフラが普及することは、企業向けネットワークサービスの進化を後押しし、産業デジタル化の基盤強化にもつながる。
最後に、KPNの決断がグローバルキャリアの潮流を左右する可能性にも触れておきたい。現在、世界ではMPLSを維持し強化するアプローチと、IPネイティブに再構築するアプローチの二つが併存している。欧州の大手キャリアが既存網でSRv6を大規模導入したことは、「ポストMPLS」をめぐる議論に対して明確なシグナルとなる。すなわち、AI・クラウド中心のトラフィックモデルを前提にするなら、SRv6型のIPネイティブアーキテクチャが次世代の標準的な選択肢になり得るという示唆となる。
こうして俯瞰すると、KPNのSRv6刷新は、光トランスポート網の強化を超えて、モバイル、AI、産業DX、そしてグローバルアーキテクチャ全体に波及する広い意味を持つことが分かる。今回の事例は、“ネットワーク全体を見据えた世代交代”が本格化しつつあることを示す象徴的な動きの一つとして捉えるべきだろう。



