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Data Link Solutionsが、米海軍および連合軍への戦術無線システムの納入契約を2億4,800万ドルで受注。複雑なLink 16波形を実行するために設計されたソフトウェア定義無線が、強化された指揮制御(C2)能力を提供

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 BAE Systemsは1月28日(ニュージャージー州ウェイン)、Collins Aerospaceとの合弁会社であるData Link Solutionsが、米軍および同盟国向けに数百台の多機能情報配信システム統合戦術無線システム(MIDS JTRS)端末を納入する2億4,800万ドルの生産契約を締結した。

 このシステムは、動的な作戦環境下において、海上、地上、空中の資産に状況認識機能を提供し、妨害波耐性のあるLink 16接続と、見通し線による音声、映像、データ通信を可能にする。
 BAE Systemsは「MIDS JTRSは、最速かつ最も安全な経路を見つけ出すことで、統合部隊間での相対位置と標的データの共有を可能にし、戦闘員が紛争状況において十分な情報に基づいた迅速な意思決定を行うことを可能にする」と説明している。

 Data Link SolutionsのディレクターであるBrian Shadiack氏は「今回の契約は、高性能で安全な指揮統制ソリューションを戦闘員に装備させるという継続的なニーズと、ニーズに応じた迅速な提供への当社のコミットメントを示すものだ」とし、「生産能力の増強により、無人航空機や装甲C2地上車両を含む、45種類以上の米国および国際プラットフォーム向けに、数百台のMIDS JTRS無線端末を提供できるようになる」とコメントを出している。

 Link 16は、NATO、米国、そしてその同盟国およびパートナー国がリアルタイムの戦術データを共有するために使用する標準化された通信システムとして利用されている。MIDS JTRSは、複雑なLink 16波形と最大3つの追加通信プロトコルを実行するように設計された4チャンネルのソフトウェア定義無線システムとなる。
MIDS JTRSは、ミッションニーズに合わせてネットワークをカスタマイズできる、拡張性と柔軟性に優れたソリューションとして提供される。Link 16との互換性に加え、MIDS JTRSの高度な戦術標的ネットワーク技術は、低遅延かつ高通信波形機能を提供し、競合環境下において重要なプラットフォームの接続性とスループットを確保する。米国陸軍省は、F-15、F-16、F/A-18、F-22航空機に加え、艦艇や地上指揮統制資産にもMIDS JTRSを導入している。

 BAE Systemsは「Data Link Solutionsは、Link 16端末およびソフトウェア、そして空・陸・海上プラットフォーム向けのロジスティクスおよびサポートサービスの大手サプライヤだ。25年以上にわたり、手頃な価格で高性能かつ高信頼性のデータリンク端末を軍隊に提供してきた実績を持ち、世界50カ国以上に9,000台以上のLink 16システムを納入してきた」と説明している。

 MIDS JTRSプログラムの作業は、ニュージャージー州ウェインとアイオワ州シーダーラピッズで行われている。

編集部備考

■本件は、米軍のみならず同盟国部隊への展開も明示されている。これは戦術無線が、各国軍が独立して設計・調達する装備ではなく、連合運用を前提とした共通通信基盤として重要性が高まっているグローバルの潮流を示唆している。無線機は、兵士・車両・艦艇・航空機・無人システムを接続するネットワークの末端装置であると同時に、データ融合・状況認識・指揮統制の基盤要素として位置付けられつつあり、その重要性の高まりや用途の広がりは、戦術無線用途の構造変化といえるだろう。
 ソフトウェア定義無線(SDR)を中核とする統合戦術無線システムは、この構造変化を技術的に支えるアーキテクチャの一つとなる。今回のData Link Solutionsの受注は、こうした通信システムの設計思想が、実際の調達・運用レベルで制度化され始めていることを示す事例として、通信技術分野においても注目に値する。
 また、戦術データリンク分野において多国間運用を前提とした通信統合技術は、従来は特定波形や通信方式の統合に重点を置いていたのに対し、本件ではソフトウェア定義無線基盤そのものを同盟圏共通の通信アーキテクチャとして提供している。これはハードウェア更新毎に変更が可能な「短中期的な通信システム装置」から、ソフトウェアによるアップデート基盤として継続する「中長期的な通信システム基盤」への拡張と捉えることもできる。

■本件を技術的な面から考察すると、Data Link Solutionsが米海軍向けに提供する統合戦術無線システムは、軍用無線アーキテクチャの設計思想そのものが転換期にあることも示しており、専用無線機を用途別に積み重ねる従来構造ではなく、SDRを基盤とする汎用通信プラットフォーム型構成が求められていることの表れとなる。
 従来の軍用無線機は、周波数帯、変調方式、暗号方式、通信プロトコルがハードウェアと強く結び付いた構造を取っており、新たな波形方式や運用要件への対応には物理機器の更新を伴うことが多かった。これに対しSDRでは、RFフロントエンドの上位に波形処理層をソフトウェアとして抽象化し、機能定義を可変化する構造を採る。これにより、単一ハードウェア上で複数波形を実装・切替・併用する設計が可能となり、無線機は用途特化装置から再構成可能な通信基盤へと性格を変えつつある。
 この波形抽象化は、戦術無線の運用モデルにも影響を与える。広帯域高速通信、耐妨害性重視通信、低消費電力通信といった異なる通信特性を、運用環境に応じて動的に選択・切替できる構造は、電子戦環境下での適応性を大きく向上させる。また、通信方式の更新がソフトウェア配信で可能となることで、軍事向け通信技術ライフサイクルと商用の通信技術進化の速度差を縮小する効果も期待される。
 さらに近年の戦術無線機は、シンプルなリンク装置ではなく、戦術ネットワークのエッジノードとして、ルーティング制御、トラフィック制御、セキュリティ管理などの機能を担う方向へ進化している。SDRアーキテクチャは、これらの機能をソフトウェア的に実装・更新可能とすることで、無線機を分散制御型ネットワークの構成要素として再定義する。この結果、戦術通信システム全体が、メッシュ型・自己組織型ネットワーク構造へと設計思想を移行しつつある。
 こうした構造は、商用通信分野で進む仮想化RANやOpen RANといったアーキテクチャとも共通点を持つ。RFハードウェアとプロトコル処理層の分離、ソフトウェアによる機能定義、アップデートによる能力拡張という設計思想は、軍用・商用の双方で並行して進展しており、通信基盤のソフトウェア化という構造的収斂が進んでいると見ることができる。
もっとも、軍用通信では暗号要件、運用安全性、検証プロセスなどの制約が強く、商用技術をそのまま流用できるわけではない。SDRによる柔軟性は、同時に構成管理やサイバーセキュリティ確保の複雑化を伴う点にも留意が必要である。そうした課題を抱える軍事通信領域において、米軍および同盟国向けという幅広さをもって採用された今回の統合戦術無線システムの完成度の高さは、戦術通信装備がハードウェア中心モデルからソフトウェア中心モデルへと移行しつつあるグローバルの潮流を示す象徴的事例の一つと位置付けることができるだろう。