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つくばフォーラム2023開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【2】

INTERVIEW 有料

サービスの高度化・多様化を支える技術(NW性能の限界超えを実現する通信・インフラ技術の革新)

空間多重光ファイバケーブル技術

 ペタビット級光線路実現には、空間モードを活用した10チャネル超光ファイバが必要となる。この空間モードは、ケーブル敷設状態や環境変化に依存した特性変動に留意が必要だ。
 そこでAS研では、光ファイバと光ケーブルの同時最適で空間モードの特性を自在に制御する技術を研究しており、光線路中の空間モード間の光パワー偏差を動的に補償する光デバイスを実現するという。
 青柳所長は「このペタビット級大容量光線路により、多様なNWサービスの提供をサポートできる。また、空間多重により設備空間を最大限活用できる」としており、「クロストークやコネクティングなど様々な課題の解決を考えると4コアが現実的であり、それに数モード多重の技術を組み合わせることで10チャネル超を実現する。この空間多重技術により伝送容量を現在の約10倍にし、他の技術との組み合わせでIOWNの目標である125倍の大容量が実現される。陸上、海底の双方のシステムで有効な技術であり、標準化を含めて取り組んでいる」と説明している。

空間多重光ファイバケーブル技術のイメージ。

電柱や管路に依存しない簡易布設光ケーブル技術

 これまで、光ファイバはメタル時代に構築された電柱・管路を利用し、住居・オフィスを中心に整備されてきたが、今後は社会のIoT化進展に向けて、光ファイバ網の更なるカバレッジ拡大が求められている。
 そこでAS研では、電柱や管路を介さずに、路面に形成した溝に布設可能な光ケーブルを研究している。これには、路面上でも容易に光ケーブル相互の接続を実現する一括接続コネクタを適用するという。
 この簡易布設光ケーブル技術により、道路掘削・復旧工事を抑制し、経済性と環境負荷低減を両立した光ファイバ整備を実現できる。また、電柱・管路に依らない柔軟なルート新設・変更が可能であり、NW冗長性向上にも寄与する。
 青柳所長は「実用化に近い技術であり、路面上での布設ということでケーブルの堅牢性を配慮しながら進めている状況だ。柔軟なルートを簡易に布設できるので、限られた期間でのネットワーク利用などでお役立ていただける技術と期待している」と説明している。

既設のルートに捉われない簡易布設光ケーブル技術は、スマートポールやモバイル基地局との連携にも適している。

超低遅延の分散型映像分割表示処理技術

 リアルタイム映像コミュニケーションに向けた研究では、超低遅延の映像処理技術の検討を実施している。実用性を高めるためには、多拠点、多視点への適用や、背景合成機能などが必要だという。
 そこでAS研では、超低遅延の分散型映像分割表示処理として、非同期の映像フレーム待ち時間を低減する技術や、分散型処理で多拠点・多視点に対応する技術、また超低遅延の背景切り抜き処理の技術に取り組んでいる。
 これにより、システム全体の映像遅延を、人間がほぼ知覚できない程度まで短縮しつつ、多人数や個人などのスケール性を要する利用や運用を実現できる。また、プライバシー保護や仮想空間利用にも繋がる。
 青柳所長は「武蔵野や横須賀といった離れたロケーションに分かれた個々の演奏を、この技術により合奏にするイベントを実験も兼ねて年に数回実施している。この技術は遅延が20ミリ秒以下(従来は数100ミリ)なので、それぞれの楽器の音を違和感なく聴くことができている。また、光ファイバ長として約700kmとなる東京・大阪間の長距離の信号伝搬による高遅延環境における、リアルタイム遠隔合唱の実証実験も実施した。こうしたイベントを中心にユースケースの広がりを期待しており、コンシューマ向けでも例えば低遅延なWeb会議としてご利用いただける」と説明している。

APNの低遅延・広帯域性を利用(非圧縮/低圧縮映像伝送)した、超低遅延の分散型映像分割表示処理技術。この技術は、市中の最新デバイスで低遅延化を実現できるので、コストパフォーマンスも期待できる。

TDD無線システムを収容するA-RoF技術

 6Gでは、無線信号の上り/下り通信を上下時分割多重(TDD)して伝送することが想定されている。その課題として、集約局-張出局間の伝送遅延により上り/下りのタイミングずれが発生することや、集約局と各張出局間の距離差により上下間干渉が発生することが挙げられている。
 そこでAS研では、集約局-張出局間の伝送遅延に対しTDDタイミングを調整することで、上下切替のタイミングを同期させる技術を研究している。切替タイミングの同期により、双方向通信を複数張出局構成で実現できるという。
 青柳所長は「この技術により、集約局-張出局間の光ファイバ長によらずA-RoF適用を可能にすることで、様々なエリアへのアンテナ展開を実現できる」と説明している。

A-RoFにより集約局で無線信号処理を行うことで、張出局での処理を軽減し、高速・無線通信を実現できる。その要素技術の一つとして、TDD無線システムを収容するA-RoF技術が活用される。

100Gbps実現に向けた高周波数帯分散MIMO技術

 6Gで高周波帯活用のため、端末への適切なアンテナ割当と遮蔽による劣化の回避が必要となる。
 そこでAS研では、高周波帯の鋭い指向性を考慮し、複数端末に対して受信電力や位置情報を用いた簡易なアンテナ割当を研究している。青柳所長は「サブTHzなど高周波帯になるほど電波が届きにくくなるが、その対応としてアンテナの数を増やすと端末間の電波の干渉が課題となる。そこで、高周波帯の鋭い指向性を利用して、干渉を回避する研究に取り組んでいる。これにより、簡易制御で並列伝送による大容量化を実現する」と説明している。
 この技術の進捗として、NTTとNECによる28GHz帯を用いた分散MIMO技術の実証実験の成功が昨年10月に発表されている。無線品質情報の取得間隔が20msで移動端末が自転車走行速度(15km/h)程度で移動した場合、現在の無線品質に基づいて分散アンテナを選択する従来方式では、柱で遮蔽される位置で受信強度が平均13dB程度低下した。対して、高周波数帯分散MIMO技術による移動予測に基づいて分散アンテナを選択した場合、同位置における受信強度の低下を従来に比べて平均8dB程度改善して5dB程度に留め、高周波数帯分散MIMOで懸念される瞬断の回避が可能であることを確認している。

前述のTDD無線システムを収容するA-RoF技術と組み合わせた、高周波数帯分散MIMO技術のイメージ。

超カバレッジ拡張衛星通信技術

 空・海・宇宙を含むあらゆる場所でのユースケースを想定した超カバレッジ拡張が検討されてており、静止衛星/低軌道衛星/HAPSを連携した多層ネットワークでのサービス提供の需要がある。この非地上ネットワーク(NTN)は、全世界あらゆるものが繋がる超広域省電力センシング環境の実現や、宇宙への人類の活動領域拡大としても期待されている。
 青柳所長は「NTTは大容量やロバスト性を有するNTNの実現をめざしており、その中でAS研はリンクのスループット向上に関する研究を進めている」としており、「今回の展示では、衛星とHAPSの異なる特性(遅延、リンク容量等)を考慮したルート制御技術(経路選択)や、複数センサ端末の送信信号を同時受信する衛星センシング技術および衛星-地上間の大容量伝送する衛星MIMO技術をご紹介する」と説明している。

超カバレッジ拡張衛星通信技術のイメージ。上空や宇宙にモバイルネットワークを構築することにより、地上の災害等にロバストなモバイルサービスを提供することが可能になる。

インタビュー目次

1:研究開発の方向性

2:サービスの高度化・多様化を支える技術(NW性能の限界超えを実現する通信・インフラ技術の革新)

3:サービスの高度化・多様化を支える技術(ユーザやサービスに合わせるNW柔軟化技術の革新)

4:運用を抜本的にスマート化する技術

5:新ビジネス領域を開拓する技術

特集目次

・技術交流サロン・ワークショップ

■出展社Preview

・NEC

・エクシオグループ

・住友電気工業

・日本コムシス

・横河計測

以下、後日更新

■会場Review