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世界最高の給電能力を有した高速光通信の実証に成功【NTT、北見工大】

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10km以上先の無電源地点に光ファイバを用いて電力供給

 NTTと北見工大は8月29日、1本の通信用光ファイバを用いて、高速かつ良好な通信品質を維持したまま10km以上先の無電源地点へ1W以上の電力を供給することに世界で初めて成功したと発表した。
 この成果により、非電化エリアを含むあらゆる光通信の未踏エリアに高速光通信が提供可能になるほか、災害時に電源供給が失われた場合にも応急対応として光ファイバを用いた通信を確立できると期待される。
 NTTと北見工大は「今回の成果は、スコットランドで開催されるECOCに採択され、現地時間の2023年10月4日に発表する」としている。

研究背景

 光通信技術と無線アクセス技術の進展・普及により、日常生活ではどこでも高速のデータ通信が利用できるようになった。一方、電源供給が困難な地帯では、無線アクセスの基地局を確保することが難しく、光通信の送信器や受信器を駆動することが困難だった。また近年、大規模地震や台風などにより、広域かつ長時間にわたる停電が発生し、復旧までに時間を要する深刻な事態が頻発している。災害発生時には、被災地域との連絡手段をいち早く確保することが重要となる。
 このため、通信用と給電用の2種類の光信号を1本の光ファイバで伝搬し、無電源の遠隔地との光通信を実現する技術が検討されている。しかし、従来の技術では光ファイバの入力光強度限界により10km以上離れた場所に、光通信装置の駆動に必要な電力を供給することは不可能だった。NTTはIOWNの大容量光伝送基盤を実現する要素技術の1つであるマルチコア光ファイバ(MCF)の研究開発を進めており、今回、MCFを使った光給電伝送について検討した。

研究の成果と詳細

 今回の研究では現在一般的に使用されている通信用光ファイバと同じ直径の細さで4個の光の通り道(コア)を有するMCFを用い、世界最高の自己給電伝送能力を実現した。

マルチコア光ファイバ(MCF)
 図1にMCFを用いた光給電伝送システムの概要を示す。今回使用したMCFは、既存の光ファイバと同じ細さで、かつ各コアが既存光ファイバと同等の伝送特性を有するため、通常の光通信(光給電を必要としない光通信)にも既存の伝送装置と組み合わせて使用することができる。また、各コアが独立して(コア間で光信号の混信を生ずることなく)使用できるため、任意のコアを給電用にも通信用にも、あるいはその双方に割り当てることができる。
 NTTと北見工大は「本検討では光給電量を最大とするため、4コアに波長1550nmの給電用の光源を入力した。更に、4コアのうちの2コアを用い、各コアに波長1310nmの上りおよび下り信号を割りあてることで双方向の光通信を実現している。また、2コアの組合せを2セット設定することもでき、これにより2つの独立した通信システムを構成することが可能だ」と説明している。

図1:マルチコア光ファイバを用いた光給電システムの概要

世界最高の自己給電伝送能力
 光給電能力は伝送距離と供給電力の積で表すことができる。同検討では、MCFの適用で単位断面積当りの供給電力を最大化し、光給電効率の劣化要因となるシステム内の戻り光を抑制することで、MCFを14km伝送後に約1Wの電力を得ることができた。光給電能力は14W・kmで、これは世界トップの性能指数となる(図2左参照)。
 NTTと北見工大は「さらに、本検討では自己給電による伝送速度10Gbpsの双方向光通信も実証した。10Gbpsの伝送速度は、現在、一般ユーザ用にサービス提供している光通信の最高速の伝送速度だ。本検討では、2コアで上り下りの1システムの構成について検討を行い、14km伝送後で良好な伝送特性を確認した。伝送速度と伝送距離の積を、自己光給電伝送における伝送性能の指標と考えると、本検討では140Gbps・kmの世界最高の伝送性能を実現することができた(図2右参照)」と説明している。

図2:光ファイバを用いた自己給電光伝送の実験例における、供給電力と伝送距離の関係(左)および伝送容量と伝送距離の関係(右)

各社の役割
NTT:MCFの最適化および光給電システムの構築と伝送特性評価
北見工大:作製したMCFの光給電能力の解明

今後の展望

 今回の実験結果は、現在の光ファイバと同等の特性を有するマルチコア光ファイバを用いることで、通常の長距離高速光通信にも、光給電型の双方向光通信にも対応できることを示したものとなる。NTTと北見工大は「これにより、災害時・緊急時には、電源回復が困難なエリアに通信ビルから給電光を送出することで通信装置を遠隔駆動しネットワークのレジリエンスが向上できる。また、将来的には平時においても河川・山間部などの非電化エリアや、強電磁界や腐食などによる電化困難エリアなど、あらゆる場所で光通信を提供可能とすることができ、多様なIoT機器と連携したセンシングネットワークの実現にも貢献できると期待される」とし、「光給電能力の更なる改善に向け、今後も産学連携による研究開発を推進していく」との考えを示している。

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