Nokiaが、世界初となるポスト量子エンタープライズ接続向け50G PONソリューションを発表
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Nokiaは10月7日(エスポー)、通信事業者が企業顧客向けに超高速のポスト量子ブロードバンド接続を提供するための50G PONソリューションの提供開始を発表した。
同社は「ポスト量子時代における企業保護を実現する、大容量、高信頼性、そして高度なセキュリティ機能を提供する」としている。
このソリューションは、NokiaのLightspan MFプラットフォーム上で利用可能だ。これにより、現在10Gまたは25G PONを展開している事業者は、運用への影響を最小限に抑えつつシームレスに50G PONに移行できる。また、事業者は既設の住宅用FTTHネットワークを使って25/50G PONを企業やその他の非住宅ユーザに活用できるので、新たな光ファイバ敷設のコストを削減できる。
このソリューションは、QuillionチップセットをベースとしたNokiaの既存の最先端光ファイバ ラインカードで利用可能だ。このカードは、GPON、XGS、25G、50G PON、そして50G対称型やマルチPONおよびトリプルPONオプションの組み合わせといった将来の光モジュールに対応するように設計されている。Lightspanラインカードは、あらゆるPONテクノロジーにおいて最小のフォームファクタの光モジュールを採用することでポート密度を最大化し、既存の光モジュールとの完全な下位互換性を確保することで、スムーズでコスト効率の高いネットワーク アップグレードを実現する。
Nokiaのブロードバンドネットワーク担当ゼネラルマネージャーであるGeert Heyninck氏は「クラウド、AI、産業用アプリケーション、そしてモバイルの進化を背景に、マルチギガビットの導入は世界中で増加している。住宅向けサービスでは、これらのマルチギガビットサービスはXGSと25Gによって効率的に提供できる。しかし、企業はより高い容量、セキュリティ、そして信頼性を求めている。Nokiaの25G/50Gは、今日そして量子コンピュータ時代の未来においても、これらのニーズに応える。当社の次世代マルチPONラインカードは、事業者が特定の顧客ニーズやビジネスケースに対応するために必要な、幅広いPONタイプ(10/25/50G)に迅速かつ安全にアクセスできる環境を提供する」とコメントを出している。
Colt Technology Servicesのエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントであるVivek Gaur氏は「Nokiaとの提携により、当社の光ファイバネットワークがエンタープライズ接続の未来をどのように支えることができるかを示すことができる。10/25G PONを含む既存のネットワーク機能を基盤として、Nokiaの50G PONソリューションの試験運用に成功し、当社のネットワークが提供する柔軟性とパフォーマンスを実証した。25G、そして将来的には50G PONにも対応することで、クラウド、AI、データ集約型アプリケーションに必要な超高速で信頼性の高い接続を企業に提供できる。これらはすべて、既存の光ファイバネットワーク上でシームレスに提供される」とコメントを出している。
Nokiaの50G/25G PONは、耐量子暗号化と安全な鍵交換により、通信事業者がユーザとネットワークの機密データを保護するのに役立つ。これにより、今日増加しているデータ収集の脅威と、量子コンピュータが利用可能になった際に復号化される脅威に対処できる。また、企業は常時接続を保証する完全冗長PON設計に頼ることができ、ファイバ切断などの障害発生時でも信頼性の高いサービスを保証する。さらに、高度なAI機能によりネットワーク パフォーマンスが最適化され、99.9999%の可用性により、ミッションクリティカルな運用におけるシームレスな接続が確保される。
IDATEの主席アナリストであるRoland Montagne氏は「通信事業者は、顧客のニーズに合わせて拡張できるネットワークを求めている。10G、25G、50G PONをサポートする単一のラインカードで、家庭用ブロードバンドから大容量ビジネスサービスまで、あらゆるサービスを提供しながら、ネットワークをシンプル、拡張可能、そしてコスト効率の高い状態に保つことができる」とコメントを出している。
編集部備考
■Nokiaの光アクセス装置「Lightspan MF」プラットフォームをベースに、GPONから25G、50Gに至るマルチPON構成全体を量子耐性のある通信基盤へと拡張した今回の発表。ここでは、本ニュースリリースの重要なポイントである、「ポスト量子通信対応」というセキュリティ面の進化と、「50G PON」というアクセス網の将来対応の必要性について考察したい。
量子コンピュータの発展により、従来の暗号(RSAやECCなど)が将来的に破られる懸念が高まっている。そのため、ポスト量子暗号(PQC)への対応は、通信ネットワーク全体の様々な領域で進められている。各領域の傾向としては、コアやメトロといったトランスポート領域では、ネットワーク制御や管理通信の安全性を確保するために、既存の暗号方式とポスト量子暗号を組み合わせたハイブリッド暗号の実証が進行している。データセンタやクラウド領域では、クラウドAPIやデータセンタ間通信(DCI)を対象に、KyberなどNIST選定アルゴリズムを実装したTLSの試験導入が始まっている。そして今回の発表の領域であるアクセス層では、長寿命機器や産業IoTを将来の量子攻撃から守るため、装置レベルでのポスト量子暗号対応が求められ始めている。Nokiaによる50G PONまで含めた対応は、こうした流れの中で「将来にわたるアクセス網における量子耐性」を明確に位置づけた動きといえる。
次に、アクセス網における50Gの必要性について考察したい。これは、通信業界の技術進化・発展という視点よりも、様々な産業における構造変化に伴う通信業界への要求として捉えた方が現実的だろう。例えば、AIの普及や産業用カメラの高解像度化・高フレームレート化、さらにエッジAIや高度な産業IoTといった、企業の生産性や収益性に直結するアプリケーションは絶えず進化しており、そこで生じるデータの大容量化に伴い、データ伝送を担うアクセス網の広帯域化は避けられない状況だ。実際に、25G PONや50G PONを使った実証は世界各地で増加しているので、商用アクセス網の将来対応として帯域拡張が求められることは十分に予測できる。今後、エンタープライズ向け接続やクラウド/AI用途などでアクセス層における高帯域・低遅延を安定的に供給できることは、通信事業者にとって重要な差別化要因となるだろう。
こうした「ポスト量子通信対応」と「50G PON」の重要性を踏まえて今回のニュースリリースを読むと、Nokia Lightspan MFを中核に、既存のマルチPON構成を維持したまま量子耐性通信へ進化できる点は、運用効率・セキュリティ・将来拡張性を同時に実現した理想的なアプローチといえるだろう。コアからアクセス、データセンタと幅広い製品ポートフォリオを持ち、各領域のポスト量子通信対応に取り組んでいるNokiaだからこそ、こうした構成の整合性と説得力を提示できたと感じる。
NokiaのPON技術は日本でも存在感をますます強めており、今年はNTTドコモビジネスや古河電工との提携が発表され、企業ネットワークやアクセス基盤での実装機会が広がっていることも示されている。グローバルで磨かれた先進技術が日本の商用環境にも浸透していくという意味でも、NokiaのPON技術の進化に今後も注目したい。