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柔軟性と高信頼性を併せ持つ5Gコアネットワークを開発【NEDO、NEC】

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2.8倍のデータ処理速度、消費電力20%削減、大容量化と省電力化を両立

 NEDOとNECは8月17日、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(以下、本事業)で、NECが「ポスト5G時代のモバイルコアの実現に向けた高信頼性・柔軟性を両立するクラウド技術拡張に関する研究開発」(以下、本開発テーマ)において、クラウド技術による柔軟性と、テレコムネットワークへの導入に対応した高信頼性を併せ持つ5GCの開発に成功したと発表した。

 今回開発された5GCは、クラウド技術を適用することにより、サービスの多様化、トラフィックの肥大化への柔軟な対応が可能になる。また、データを送受信するための伝送経路となるデータプレーンでは、ハードウエアを活用したパケット高速転送技術を開発し、消費電力当たりのスループットで従来比2.8倍を実現した。さらに、ハードウエアリソースを動的に制御する負荷判定技術を開発し、トラフィックの閑散時には消費電力を20%削減することが可能となり、これにより、大容量化と省電力化を両立し、消費電力当たりのデータ処理速度の最大化を実現した。
 5Gは、従来の一般消費者を中心としたテレコムネットワークのみならず、交通や物流、製造、医療、教育、観光、公共など、幅広い産業に革新的な発展をもたらすことが期待されている。NEDOとNECは「今後は産業ごとのIT/OT(制御技術)システムにも適用し、すべての人とモノがつながるネットワークインフラの実現に向けて貢献する」としている。

概要

 産業基盤としての5Gネットワークの活用は、日本の産業生産性を向上し、Society 5.0を実現する鍵として注目されている。一方で5Gネットワークの普及に伴い、ネットワークの使われ方が多様化し、トラフィックの計画・管理が困難となることが予想され、変化に追従できる機敏性・柔軟性と、テレコムネットワークとして求められる高信頼性の両立が必要となる。また、トラフィックや収容回線数の肥大化などの課題に対して、大容量・省エネルギーで運用できるシステムの実現が求められる。
 このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2020年度から本事業において、NECと共同で本開発テーマに取り組んでいる。
 今回、NEDOとNECは産業ITシステムでの活用を見据えた、5GCの開発に成功した。クラウド技術を適用することで、産業基盤として不可欠な外部からのネットワーク制御を実現したオープンAPIを搭載している。今回開発した5GCは、クラウド技術によるネットワークリソースアサインの機敏性・柔軟性と、従来のテレコムネットワークに求められる高信頼性を両立している。さらに、ハードウエアアクセラレータ技術を活用した高速・省電力なデータプレーン技術の開発により、環境負荷の少ない省エネルギー・省スペースなシステムの実現を可能とした。

今回の成果

1:柔軟性と高信頼性を併せ持つ5GCの開発
 従来の仮想化技術では1システムを一つの制御単位として扱う構造だったが、本開発テーマでは、コンテナ化技術や分散ソフトウエア技術、個々の独立したサービスを組み合わせてアプリケーションを構成するマイクロサービス アーキテクチャといったクラウド技術を用いることで、サービスや通信処理をマイクロサービスの単位に適切に分割する。これにより、従来の仮想化技術に比べて、非常に高いネットワーク リソース アサインの機敏性や柔軟性をもたらすとともに、マイクロサービス単位でのシステムの配備・運用が可能となることで、モジュールの新設・増設にかかる時間を従来の10分の1に短縮できる。
 また、産業ITシステムでの活用を見据え、ネットワークの設定・制御に外部のネットワークシステムからアクセスを可能とするオープンAPIを搭載した。これにより、汎用的なWebサービスで用いられるプロトコルによるシステム間インターフェースを介して、5GCを産業ITシステムの延長として直接利活用できるオープンなネットワークシステムを可能にしている。
 さらには、社会基盤となるテレコムネットワークが満たすべき信頼性を確保するため、テレコムネットワークの制御特性に応じた可用性モデルを実現することでサービスの中断無く機能アップデートを可能とし、過剰な負荷が集中した際にもシステムダウンしない仕組みなどを搭載している。
 NEDOとNECは「このように、ネットワークリソースアサインの機敏性・柔軟性とテレコムネットワーク水準の信頼性を両立した5GCは、これまでの通信事業者の専用のデータセンタのみならず、企業のプライベートネットワーク、さらには、パブリッククラウドサービス上でのシステムの配備・運用を容易に可能とし、モバイルネットワークとクラウドサービス、産業ITシステムを融合した本格的な5Gサービスの展開に向けての活用が期待できる」と説明している。

5GCの構成

2:高速・省電力なデータプレーン装置の実現
 4K/8K映像配信などのコンテンツのリッチ化による高速・大容量通信が進むことで、大容量のデータトラフィックに対応したモバイルネットワークの実現が求められている。一方で、このトラフィックの伸びに伴うデータプレーン装置(U-Plane装置)の増加は総消費電力量の増加につながるため、ポスト5G時代のデータプレーンでは、大容量化と省電力化の両立が重要な技術要素となる。そこで、本開発テーマでは、仮想化技術としてコンテナ技術を活用することで高い拡張性を実現し、大容量化と省電力化それぞれ両立が可能な技術開発を行ったという。
 まず、大容量化技術に関しては、CPUなどのリソース利用効率を改善してパケット転送効率の向上(パケット高速転送技術)を実現すると同時に、ソフトウエア処理を汎用ネットワークカードへオフロードする技術を開発。これにより、さらなる高効率化と、消費電力当たりのスループットで従来比最大2.8倍の大容量化を実現した。
 また、省電力化技術に関しては、従来、トラフィック変動によらず一定のハードウエアリソースを使用するため電力も一定に消費していたが、本開発テーマでは、トラフィックの時間変動に合わせて、ハードウエアリソースを動的制御することで、省電力化を実現した(負荷判定技術)。これにより、トラフィックの閑散時には消費電力を従来比で最大20%削減可能であることを確認した。
 NEDOとNECは「これらの技術を活用することにより、大容量化と省電力化を両立し、消費電力当たりのデータ処理速度の最大化を実現した」と説明している。

今後の予定

 複雑化するサービスやソリューションの提供に応えていくためには、技術的な観点からの性能や要件の担保が必要なことに加えて、ネットワークとアプリケーションやサービスが一体となりシステム全体が最適化を図りながら発展・進化していくことが求められる。
 NECは、次世代モバイルインフラに求められるネットワークパフォーマンスの最適化を考慮した5GCの提供により、5G時代の高度なサービスやソリューションの提供および持続可能な社会の実現に貢献するとしている。
 NEDOは、本技術開発をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの構築・製造基盤強化をめざすとしている。

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