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つくばフォーラム2020 ONLINE開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【2】

INTERVIEW 有料

IOWN構想を実現する革新技術

 IOWN構想では、情報処理基盤のポテンシャルを大幅に向上させる「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、全てのICTリソースを最適に調和する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」、サービス・アプリケーションの新しい世界である「デジタルツインコンピューティング(DTC)」の3つの要素でスマートな社会を実現していく。
 AS研ではIOWN構想の実現のため、マルチコア光ファイバ・ケーブル技術、フォトニックゲートウェイ、CradioTMなどのアクセスネットワークの革新技術に取り組んでいる。

マルチコア光ファイバ・ケーブル技術
 APNを支える光伝送路基盤の実現に向けた、標準クラッド径マルチコアファイバ技術、ケーブル技術、接続技術の研究動向が紹介される。
 次世代の光ファイバ技術として、N個のコアを同一クラッドに配列することで伝送容量をN倍にする「マルチコア光ファイバ」、また伝搬する光の種類(モード)をM個にすることで伝送容量をM倍にする「数モード光ファイバ」が研究されている。この2つの技術を組み合わせると、ファイバの伝送容量をN×M倍に拡大できる「数モードマルチコア光ファイバ」となる。青柳所長は「我々は、現在普及しているファイバと同じクラッド外径でマルチコア光ファイバを実現する研究を進めている。そうすることで、接続や様々な要素で既存の設備と整合性がとれ、施工の耐久性も維持できるからだ。実用化に向けては、コア数は4つが現実的だと考えている」と説明している。
 この分野に関するAS研の研究としては、光ファイバ内のモード間の速度差による信号劣化(空間モード分散)を押さえるため、光ファイバの最適設計に加え、ケーブル内におけるファイバのバンドリングを工夫するというものもある。モード分割多重伝送では空間モード分散による伝送性能劣化を抑えることが重要であり、その課題解決に有効な手段として期待できる技術だ。青柳所長は「ファイバのバンドルテープの巻き方や強さで分散をコントロールできる」と話す。

フォトニックゲートウェイ
 IOWN構想におけるAPNをアクセス面から支える技術として、AS研で検討しているフォトニックゲートウェイについて動態展示される。青柳所長は「APNでは、ユーザ装置からの光信号を従来のようにネットワークの中で電気に戻して処理することなく、光のまま所望の場所に届ける。我々はここで使われるアクセスノードをフォトニックゲートウェイと呼んでおり、今回の展示ではそのイメージをご紹介する」と話す。
 展示では、新たなユーザ装置をネットワークに接続した際に、ユーザ装置への波長割当と光パスの設定を自動で行うデモが紹介される。これにより、「挿せばつながる」というコンセプトを実証するという。また、フォトニックゲートウェイを構成するキーデバイスとして、先端集積デバイス研究所やデバイスイノベーションセンタで開発しているデバイスも紹介される予定だ。

広帯域FM一括変換光伝送技術
 プロトコルフリーに多様なサービスを収容可能な、広帯域FM一括変換光伝送技術について、そのコンセプトがパネルで紹介される。青柳所長は「デジタル伝送に変換することが難しい多様なサービスを、低遅延でフレーム処理が不要な方式で伝送することで、伝送プロトコルに依存しないネットワークを目指している。それを支える技術の一つが、この展示となる」と話す。

マルチ無線プロアクティブ制御技術「Cradio™」
 青柳所長が「今年のAS研の売りでもある」と話す「Cradio™」。その無線動的制御技術も紹介される。
 AS研では、ユーザに無線ネットワークを意識させないナチュラルな通信環境の提供を目指し、「把握/可視化」「予測/協調」「設計/制御」の3つの技術を高度化/連携させたマルチ無線プロアクティブ制御技術の技術群を「Cradio™」と名付け、IOWNの構成要素として研究を進めている。青柳所長は「Cradio™という名称は、cradle(ゆりかご)とradioをベースに名付けた。Cradio™は、様々な方式の無線が伝搬している中で、お客様の無線が上手く切り替わるよう、状況を把握し、制御する。そのためにはお客様の電波状況を全て把握しなくてはならないので、非常に難しい。トラヒックに影響する要因としては、例えば駅が混雑する時間帯、イベントの開催状況などがあるので、それを把握してAIで予測しながら、伝送の領域を増やすなどのコントロールをして、お客様が使いやすい形にする。今回はその検討の状況をご紹介する」と説明している。
 今回の展示では、「Cradio™」の設計/制御技術として、人・モノに合わせて無線ネットワークが 動的かつプロアクティブに用意される世界を目指し、“複数ネットワーク方式”“動的配置可能な基地局”を踏まえた「動的無線制御」のプロトタイプを紹介するという。

低軌道衛星MIMO・センシングプラットフォーム技術
 IOWNにおける衛星を活用した新たな通信システムとして、低軌道衛星を利用した衛星MIMO大容量通信技術、および衛星センシングプラットフォームのコンセプトが紹介される。また、同技術の軌道上実証に向けたJAXA革新的衛星技術実証プログラムへの取組みも紹介されるという。
 青柳所長は「我々はJAXAと共に、高度2,000km以下の低軌道衛星と、海洋や地上のあらゆる場所にあるIoT端末とを接続する研究に取り組んでいる。これは既存のIoT端末も収容するので、マルチプロトコルで一括受信する技術となる」と説明している。

遠隔ビームフォーミング技術
 無線容量拡大には高周波数帯の利用が効果的だが、伝搬距離が短く、無線基地局の高密度展開が必要となる。そこで、アナログRoFの適用により、無線基地局機能を集約して張出局を簡易化し、電源や設置スペースの制約を軽減した経済的な無線エリア拡大を実現する研究が進められている。青柳所長は「昨年も展示した技術であり、遠隔ビームフォーミングに関する進捗をご紹介する」と話している。
 高周波数帯で必須となるビーム制御は、集約局から遠隔で行う。AS研では、パッシブなビーム形成機能を張出局に配置し、波長切替のみでビーム切替を可能とすることで、マルチビーム形成も容易な遠隔ビーム制御技術を考案したという。

高周波数帯分散アンテナシステム技術
 モバイル6Gに向けた技術として、1ユーザあたり100Gbps以上の超大容量高速無線アクセスシステムを実現する、高周波数帯分散アンテナシステムが紹介される。このシステムは、1GHz以上の超広帯域信号を活用して100Gbps以上の超高速無線を実現するとともに、アンテナの超高密度分散配置により、遮蔽環境での面的カバーと1ユーザ1セルによる超大容量も実現する。青柳所長は「大容量伝送のために周波数の帯域が上がると、直進性が非常に短くなり、一つのアンテナでカバーできる範囲は5Gよりも狭くなる。そこで、どのようなアンテナ配置にすれば効率的な設備となるのか、またシステム構成はどのようなものなのかをご紹介する」と説明している。
具体的な展示内容としては、システムコンセプトとその基盤技術として、分散アンテナ間協調信号処理技術、マルチユーザ干渉補償技術、非再生中継などを活用した分散アンテナ展開技術が紹介される。

ネットワークリソース管理技術「NOIM」
 APNでは、波長、無線、所外設備などの多様なネットワークのリソースを組み合わせ、異なる要件のサービスを提供する。その実現のためには、サービス開通・設備障害のたびに要件に合わせてリソースを動的に組み替える必要があるため、エンドエンドでリソースの状態を管理・制御する方式が求められている。青柳所長は「人手によるネットワーク運用が、最近では自律的オペレーションとなり、ネットワークの状況の監視も自動化された。そして、これから我々が目指すのは自己進化だ。新しいサービスが追加された、新しい装置が追加された、そうした時にオペレーションが自動的に認識してそれらの管理を全てコントロールする。つまり、何かが追加されるたびにソフトウェアを作り替えるのではなく、自己進化するオペレーション基盤を作るというのが大きな方針だ」と説明している。
 その手段の一つが、今回展示されるネットワークリソース管理技術「NOIM(Network Operation Injected Model)」だという。例えばIP、Ethernet、伝送のシステムはそれぞれ独立しているので、トラブルが発生した際には各部門がデータベースを持ち寄らないと原因の特定ができず、時間がかかる。対して「NOIM」は、これらを一元管理することで瞬時に状況を把握する管理技術だ。技術のイメージとしては、個々のサービス・ネットワークの特性、各レイヤの関係性を外部定義することで、サービス・ネットワークに依存せず多様なネットワークを統一なモデルで管理可能とするネットワークリソース管理となる。
 展示では、ネットワーク種別によらない統一モデルを適用することにより、ネットワーク種別をまたがってエンドエンドで構成要素/リソースを管理制御する実現イメージが紹介される。

インタビュー目次

つくばフォーラム2020 ONLINE開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【1】
つくばフォーラム2020 ONLINE開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【2】
つくばフォーラム2020 ONLINE開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【3】

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