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つくばフォーラム2017Preview【小林所長インタビュー】

INTERVIEW 有料

 10月19、20日の2日間、NTTアクセスサービスシステム研究所(以下、AS研)会場等において、アクセスネットワークに関するサービス、システムの総合シンポジウム「つくばフォーラム2017」が開催される。
 今年のテーマは「かけがえのないパートナーと創る アクセスネットワーク~IoT/5G時代の先進技術と安全な設備構築・運用~」。NTTアクセスサービスシステム研究所 所長の小林正樹氏は「これには、ネットワークをつくり、守る皆様、さらにはその皆様を支える方々と一緒に、社会を持続的な発展へと導くアクセスネットワークを創り上げたいという思いを込めている。IoTに代表されるICTサービスの進展や5G時代の到来は、アクセスネットワークに新たな変革をもたらすことが予想される。一方、設備の老朽化や保守要員の減少等の課題も顕在化しつつある。本フォーラムでは、IoT/5G時代を見据えた先進技術と、ネットワーク運用の課題解決に向けて進化するR&D成果の展示を予定している。また共催団体ならびにNTTグループ各社の皆様方と共に、“人身事故撲滅に向けた取組み”の企画展示を予定している」と話している。
 AS研による展示項目は39件を予定。その中で新規展示は18件となる。今回のインタビューでは、おすすめ展示として全体からピックアップされた項目について、小林所長に解説して頂いた。

(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)

かけがえのないパートナーと創る アクセスネットワーク~IoT/5G時代の先進技術と安全な設備構築・運用~

アクセスネットワークへの高機能化要求

NTTアクセスサービスシステム研究所
小林正樹所長

 従来は有線が中心だったインターネット環境もモバイルへと進展し、加入者は自宅やオフィスだけでなく、いつでもどこでもインターネットを利用できるようになった。そうした生活スタイルの変化に伴い、AS研ではモバイル向けサービスを意識した研究開発を強化している。小林所長は「今後は様々な産業のICT利活用により高付加価値の社会ICTサービスが普及すると想定している」と話しており、街中でのシームレスなサービス、高度な都市機能としてダイナミックマップによる路車間通信の進化、そして双方向AR会議といった在宅ワークの進化を支える、IoT/5G時代のアクセスネットワークの研究を進めているという。
 ネットワークの進化の変遷は高速化だ。モバイルの高速化や映像高精細化といった今では当たり前の環境も、アクセス系を含め各ネットワーク技術の高速化により人々の生活を豊かにしてきた成果だ。だが、IoT/5G時代におけるアクセスネットワークへの高機能化要求は高速化だけではないという。小林所長は「利用者のニーズに最適な品質の提供や、ニーズに応じた機能を柔軟に配置できることも求められている」と説明する。また、日本には労働者人口の減少という課題もあり、小林氏は「これらのネットワーク設備を少人数で保守・運用できる技術も重要になる」と指摘する。

PONをモバイルネットワークに適用

 AS研では、PONをモバイルネットワークに適用することで、経済的にスモールセルを収容する研究を進めている。小林所長は「従来のFTTHサービスで採用されていた上り伝送技術(帯域割当技術)では、5Gモバイルの遅延要求を満たすことができない。この課題を、親局と連携した帯域割当技術により解決し、低遅延TDM-PONを実現する」と話す。
 この低遅延TDM-PONは、10G×4の40G級PONであるNG-PON2で実現するという。2015年に終了したNG-PON2の基本仕様の国際標準化では、AS研提案の仕様も多数採用されている。小林所長は「展示会場では、NG-PON2にAS研の独自技術を加えた試作機で動態デモを実施する」と話している。

分散スマートアンテナ型協調無線LAN技術

 IoT/5G時代においては、急増するモバイルトラヒックを効率的に収容するため、無線LAN基地局(AP)の高密度設置が求められる。小林所長は「AS研では、AP高密度環境での電波干渉制御によってスループットを向上し、エンドユーザに快適なWi-Fi通信環境を提供する研究を進めている」と話す。
 無線リソース制御技術では、複数のAPを制御するセンターが各APから得た無線環境情報を収集・管理し、各APに対して適切な無線リソースの制御パラメータ(チャネル、帯域幅)を算出・設定することで、干渉によるスループットの低下を回避し、限られた周波数チャネルを最大限に活用する。
 こうしたAP制御と併せて、アンテナの干渉電波の飛びを短縮する、分散スマートアンテナの研究も進められている。この技術は、端末との通信品質の良いアンテナを選択し、電波出力を最適化して送信することで、電波の不要な飛び越えを抑えて干渉を低減するというもの。この技術によりAP配置の高密度化が可能となり、例えばスタジアムの場合、座席ごとに最適なアンテナ選択・出力ができるようになる。
 こうした高密度環境に最適な無線LAN規格となるIEEE802.11axの標準化活動もNTTグループ主導で立ち上げ、他のオペレータ、主要チップベンダと連携して推進している。小林所長は「2019年7月に標準化が完了する予定だ」と話している。

300kmを超える長距離118.5Tbps伝送の実現

 独立したN個のコアを同一クラッド内に配列するマルチコア光ファイバ(MCF)技術と、同一コア中を伝搬する光の種類をM個にする数モード光ファイバ技術を組み合わせることで、光ファイバ1本の伝送容量をN×M倍に拡大する研究が進められている。
 NTTは既に、一般的な光ファイバと同じ細さ(125μm)に現在使用している単一モード光ファイバと同等の光学特性を有するコアを4個配置したMCFの試作に成功しており、118.5Tbpsの伝送容量を達成している。小林所長は「300km超のMCF伝送路を構築し、既存の接続、送受信技術を活用した4コア並列伝送を実証した」としており、「この実証では異なるベンダのファイバをそれぞれ100km以上相互接続し、0.21dB/kmの低損失性を実現した」と強調している。

ネットワーク構成情報をレイヤ毎に管理し、NW-AIで効率化・自動化

 NW-AI技術を活用し、有スキル者に依存している高度な保守運用業務の効率化・自動化に向けた研究開発を進めている。小林所長は「現状は、IPレイヤ、イーサレイヤ、伝送レイヤといった個々のネットワークに特化した、異なる構造のネットワーク構成情報を管理している。我々の研究ではこれらの特化モデルを統一し、ネットワーク構成情報をレイヤ毎に管理することで、NW-AIがネットワークを管理するOpSの管理モデルの違いを意識することなく、ネットワーク情報の取得方法を共通化できる。多様な伝送・転送ネットワークの方式・構成に対応が可能だ」と説明している。
 モデルを統一して管理することにより、レイヤ跨ぎのネットワーク構成の把握、収容情報の保守者への提供、故障影響がネットワークレイヤを跨ぐ場合の把握が可能になるなど、保守運用性が向上する。

人身・設備事故の撲滅

 AS研ではICTの先進技術を現場に導入することによって、点検等の保全に関わる作業の安全かつ効率性向上を目指す“i-Maintenance”構想を推進しており、国土交通省が推進する“i-Construction”構想と併せて、人身事故の抑制に注力している。小林所長は「重症人身事故件数をなかなかゼロに出来ない。基本動作の不徹底が主要因であると捉えており、安全な人員配置の不備や、現場のみの判断で工程を変更するマネジメント不足といった、構造的な問題でもある」と警鐘を鳴らしており、「これまで、つくばフォーラムでは研究所や出展企業がそれぞれ個別に展示を行ってきた。今年は “安全”をテーマとした企画展示コーナーにおいて、研究所、NTTグループ会社、共催団体が三位一体となり“進化した安全”をご紹介する」と話しているので、従来とは一線を画した展示が期待できそうだ。

ロボットを活用したマンホール未入孔点検技術

 安全に関する研究の一つとして点検者がマンホールに入孔せずに点検できる技術が紹介される。
 この技術は、可動式アームに搭載したカメラでマンホール内部の上床板の撮影と劣化判定を自動で実施するというものだ。点検者が全ての作業を地上から実施できることで、転落や酸欠事故の防止になる。小林所長は「大型のマンホールも含めて様々なタイプに対応できる。L字型の機構で、水平方向に最長2.5mまで伸ばして撮影できる」と説明している。
 照明は、間接光の利用により均質な照度を実現している。撮影画像は、各劣化部位の色特徴から劣化部位を識別する色検知技術と、鉄筋幅相当の直線形状を識別する形状検知技術の組み合わせにより、壁面汚れが除外された高精度な劣化検知を実現している。

ドローンを活用したマンホール未入孔点検技術

 マンホールの点検技術では、ドローンを活用する研究も進められている。歩道のような安全な場所からドローンを操作して点検を実施できるので、車道での事故を低減することに繋がる。小林所長は「壁面に接触することはできないので、マンホール開口部からの入出孔の制御技術や、狭い空間における姿勢安定性の技術の開発が重要になる。また、マンホール上床板を撮影するためのドローン操作アルゴリズムの構築と撮像装置の開発も進めている」と説明している。

 今回、小林所長が新たなコーナーを立ち上げたことからも、保守運用の“安全”への真剣さが伝わってくる。従来のような効率化だけではない、人身事故の撲滅という意義深いテーマであることから、会場では来場者にとって価値のある説明が聞けるだろう。ネットワークに関しては、PONをモバイル5Gへ適用する技術が興味深く、FTTHで培われたノウハウがモバイルへと拡大する象徴のように感じる。今回の各展示を見ることで、アクセスネットワーク技術の広がりを知ることができるだろう。

特集目次

小林所長インタビュー
展示会概要
展示会場の見どころ
「テーパーダイア鉄蓋」を開発【NTT】

出展社ピックアップ

アンリツ
Viaviソリューションズ(旧JDSU)
NEC
NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)
FXC
協和エクシオ
三和電気工業
住友電気工業
日本コムシス
原田産業
フジクラ
丸文
三喜
三菱電機
横河計測(旧社名:横河メータ&インスツルメンツ)

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