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次世代コネクティビティが自動車産業を変える―IDEMIA Secure Transactionsが示す“モビリティの未来”

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 ネットワークの高速化、急速に進むAIの高度化、そして進化したコネクティビティ基盤の登場により、自動車産業はデジタル エコシステムへと移行する新たな時代へと突入している。その中心にあるのが、ソフトウェア定義型車両(SDV)、デジタルカーキー、車内決済ソリューションだ。こうしたSDVの信頼性とセキュリティを確保するには、通信インフラから車両・デバイスに至るまで、バリューチェーン全体での協業が不可欠となる。
 IDEMIA Secure Transactions(IST)は、自動車業界の「よりつながり、安全で、インテリジェントなドライビング体験」への移行を支援している。その専門性の中心にあるのは、コネクティビティとセキュリティという2つの柱だ。

 車両のコネクティビティは、自動車メーカーにとって車両メンテナンスを向上させ、安全にソフトウェア更新を行うための重要な資産だ。各社がeSIM技術を活用し、自社フリートの通信契約をリモートで有効化する中、膨大な規模でeSIMのライフサイクルを効果的に管理する必要がある。ここでISTの専門性とリーダーシップが発揮される。
 ISTは、自動車のコネクティビティ分野において、クラウドホスティング型プラットフォームや、自動車メーカーと世界中のモバイル事業者のITバックエンド統合を支援する専門サービスを展開。自動車分野におけるセキュアな接続性を実現し、すでに世界の大手自動車メーカー10社のうち5社と協業している。

 また、今後、自動車産業とそのインフラの進化を支える基盤となるのは「取引のセキュリティ」だ。特に注力すべき領域は、ソフトウェア定義型車両、デジタルキー、車内決済、そしてグローバルなコネクティビティとセキュリティとなる。

 今回の記事では、通信インフラ・AIの進化に伴い新たに広がる自動車・IoT領域の課題、技術、そして展望について、IDEMIA Secure Transactionsのオートモーティブ&IoTビジネスライン担当シニアヴァイスプレジデントであるPhilippe de Oliveira氏に話を聞いた。

(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)

SDVが自動車メーカーを変革

IDEMIA Secure Transactions
オートモーティブ&IoTビジネスライン担当シニアヴァイスプレジデント
Philippe de Oliveira氏

OPTCOM:SDVにより、UX(User Experience)はどのように変化するのでしょうか?

Philippe de Oliveira氏:SDVの登場は、自動車産業の基盤をハードウェア中心の設計から、ソフトウェア主導のエコシステムへと大きく転換させています。これにより、車内体験は高いパーソナライズ性と利便性を備え、常に新しい可能性を取り入れながら進化し続けるものとなります。
 UXが変わる領域は主に2つあります。ひとつは「パーソナライゼーション」、もうひとつは「コネクテッド・モビリティ」です。車両機能やサービスをOTA(Over-the-Air)でアップデートできるため、購入後も自動車のインターフェースやサービスは固定的ではありません。ドライバーや同乗者は、新しい機能や自分に合わせたデジタルサービスを継続的に享受でき、自動車は“個人のデジタルハブ”へと進化します。
 この仕組みによって、インフォテインメントから車内決済、デジタルキー、運転支援機能に至るまで、幅広い領域でカスタマイズが可能となり、クルマそのものがユーザのデジタルライフの延長線上に位置づけられるのです。

 さらに、この変革はIDEMIA Secure TransactionsとInfineon Technologiesのパートナーシップ(※1)のような戦略的提携によって支えられています。これにより、車両からクラウドに至るまで、安全かつシームレスに接続されたエコシステムの構築が実現されつつあります。
(※1 IDEMIA公式web:IDEMIA Secure TransactionsとInfineon Technologiesが、自動車産業の未来に向けた戦略的パートナーシップを発表)

デジタルキーとスマートフォン/若い世代が求める“キー不要”の車両アクセス

――:SDVにおけるUXのトレンドについて教えてください。

Philippe de Oliveira氏:自動車のキーを持たずに利用したいというニーズは明確なトレンドになっており、特に若くテクノロジーに精通した世代に強く表れています。彼らはシームレスで便利、かつ常に接続された体験を当然のものと考えているのです。
 その中心にあるのが「デジタルカーキー」です。これはNFCやBluetooth技術を活用し、スマートフォンをそのまま自動車のキーとして機能させるものです。ドアの解錠やエンジン始動を容易にするだけでなく、カーシェアリングや時間制限付きのアクセス権付与といった機能にも対応し、モビリティの概念そのものを拡張しています。

 さらに補完的なソリューションとして、IDEMIA Secure Transactionsが提供する自動車グレードの「NFCキーカード」があります(※2)。これらはデジタルキーと同等の利便性とセキュリティを備え、業界標準に基づいたNFC搭載車両と完全に互換性を持つよう設計されています。そのため幅広い環境での相互運用性が確保されており、スマートフォンを使わない場合でも確実に車両へアクセスできる重要なバックアップ手段となります。
(※2 IDEMIA公式web:IDEMIA Secure Transactionsは、最先端の自動車グレードのNFCキーカードでシームレスな自動車アクセスへの道を切り拓く)

――:車内決済などが社会に普及することにより、自動車は収益モデルの面でも産業を大きく変えることになりそうですね。

Philippe de Oliveira氏:自動車がよりコネクテッドかつインテリジェントになるにつれ、それは“一度購入して終わりの製品”から、“継続的に収益を生み出すプラットフォーム”へと変わりつつあります。この変化は、自動車をデジタル商取引の拠点として活用する新しいビジネスモデルを生み出しています。
 自動車を収益源へと変革する可能性のある戦略には、次のようなものがあります。

・サブスクリプション型機能:自動車メーカーは高度なインフォテインメント、先進運転支援機能、さらにはパフォーマンス向上機能などをサブスクリプションとして提供可能です。これにより、初期販売後も継続的な収益源が生まれます。

・車内コマース:クルマそのものが安全なウォレットとなり、ダッシュボードから直接、燃料代、通行料、駐車料金、ドライブスルーでの飲食代などを決済できます。利便性の向上に加え、パートナーシップや新たな価値創出の機会も広がります。

・MaaS(Mobility-as-a-Service):カーシェアリングやライドシェアの拡大は、自動車メーカーにとって大きな機会です。所有ではなく利用に基づいた収益モデルを構築でき、デジタルキーやセキュアな接続機能の統合によって、より効率的かつスケーラブルな運用が可能となります。

 こうしたビジョンを拡大するためには、グローバル規模で安全に接続・アクセス・決済を管理できるインフラが必要です。自動車メーカーは従来型のSIMプロバイダに頼るのではなく、IDEMIA Secure TransactionsのようなサービスAPIパートナーを選ぶようになっています。これにより、接続性、車両アクセス(NFCカードからデジタルキーまで)、統合型決済機能を自在にコントロールできるアグノスティックなソリューションが提供されるのです。

グローバルなコネクティビティとセキュリティ

――:デジタル化はメリットが大きい一方で、どのような産業でもセキュリティが懸念されます。世界中で安全かつシームレスな自動車のアクセスを実現するために、御社はどのような取り組みに注力されているのでしょう?

Philippe de Oliveira氏:グローバルに接続された自動車の実現には、シームレスな接続性と揺るぎないセキュリティの両立が欠かせません。その課題は、膨大な数のモバイルネットワークオペレータ(MNO)契約を管理し、国境を越えてデータや認証情報の完全性を確保することにあります。
 解決策のひとつが、eSIMと堅牢なエンド・ツー・エンドのサイバーセキュリティの組み合わせです。eSIMは車両に直接組み込まれる再プログラム可能なSIMであり、自動車メーカーはリモートで接続を管理できます。これにより物理的なSIMカードが不要となり、製造ロジスティクスがシンプル化されるだけでなく、自動車は走行する場所に応じてリアルタイムで最適な通信事業者を選択できます。その結果、緊急通報サービスからインフォテインメントに至るまで、途切れのない信頼性の高い接続が実現されます。
 また、安全でシームレスなアクセスを達成するには、多層的なセキュリティ基盤が不可欠です。具体的には、重要データを保護するセキュアエレメント、車とクラウド間の通信を守る高度な暗号技術、そして認証情報のライフサイクル管理システムを組み合わせることが求められます。
 さらに、量子コンピューティングの登場といった将来の脅威に備えることも重要です。現在生産される自動車は、量子コンピュータが実用化される時代にも道路を走り続けるため、数百万台がリスクにさらされる可能性があります。業界は今こそ行動を起こし、より強力な暗号アルゴリズムへ継続的にアップグレードできる「暗号アジリティ」を備えたポスト量子耐性を導入すべきです(※3)。これにより、現在そして将来のモビリティサービスの双方を確実に守ることができます。
(※3 IDEMIA公式web:IDEMIA Secure Transactionsが、ポスト量子向けの画期的な暗号アジリティソリューションを発表)

編集後記

 Oliveira氏に解説していただいたSDVのある社会のUXは、非常に魅力的な日常だ。今回のインタビューではその先進的な実情に迫ると共に、自動車側の視点からのセキュリティにも言及していただけた。
 その中で特に印象に残ったのは、ポスト量子暗号(PQC)という通信の重要課題は、自動車産業にとっても今から備えておくべきものであり、通信の専門家だけで完結しないという点だ。世の中で自動車や鉄道、そしてスマートシティにおける様々な産業のデジタル化が進む中で、「通信セキュリティの知見」と「接続先産業の要件」との融合が不可欠になっていることが感じられた。特に自動車のライフサイクル(10年以上)を考えると、「今から販売する自動車が、量子コンピュータ時代にまだ走っている」可能性が高いという、将来を見据えた課題が浮上している。
 自動車産業におけるポスト量子暗号の取り組みを整理すると、ひとつ興味深い点に気づかされる。国内の自動車メーカーと、欧米を中心としたグローバル企業とでは「注力している分野が異なっている」ということだ。
 国内メーカーは、車両の長寿命性や厳格な安全基準、さらには材料シミュレーションや量子計算を活用した研究といった「自動車固有の要件」を重視している。その一方で、グローバル企業は、NISTをはじめとする標準化活動、eSIM/iSIMなどの通信基盤との親和性、相互運用性を見据えた枠組みづくりといった「暗号技術のエコシステム形成」に積極的だ。
 こうした日本とグローバルの違いからは、双方の強みが交わることで「車載セキュリティのポスト量子時代」が加速するのではないかという期待感を抱かせる。
 今回のインタビューで浮かび上がったのは、その橋渡しを担うプレイヤーとしてのIDEMIAの姿だ。グローバル標準に積極的に貢献しつつ、自動車産業が必要とする「取引の信頼性」を補完していく。通信と自動車、両産業を横断するこうした取り組みが、次の時代のエコシステムを切り拓いていくと感じた。

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