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世界初、IOWN Open APN向け大容量光伝送システム実証環境に量子鍵配送システムを統合、高速データ通信と鍵生成との共存に成功【東芝、NEC、NICT】

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通信キャリアの基幹系光ネットワークへ、低コストで安全な量子鍵配送サービスの導入をめざす

 東芝、NEC、NICTは7月28日、量子暗号通信分野において、量子鍵配送(Quantum Key Distribution、以下、QKD)信号を、IOWNのオール光ネットワーク向けのシステム環境で多重伝送し、鍵生成を行う実証実験に世界で初めて成功した(※)と発表した。
(※)東芝、NEC、NICT調べ(2025年7月1日時点)

 本実証では、IOWNを実現するネットワーク基盤として提案されているオール光ネットワークOpen APNの構成機器となる光伝送装置を用いた大容量光伝送システムをNICT量子ICT協創センター内に構築し、通常の高速データ通信に加えて、東芝とNECが持つそれぞれ異なる方式のQKD信号を同一伝送区間で多重伝送する実験を行った。
 本実証は、QKD信号専用の光ファイバインフラを新たに構築することなく、通信キャリアの基幹ネットワーク上にQKDネットワーク(複数の量子鍵配送システムを互いに接続してネットワーク化すること)を構築できる可能性を示すもので、将来的に広域かつ低コストで量子暗号通信サービスをユーザに提供できることが期待される。また、今後、量子暗号通信の実用化が進むと、QKDネットワークの信頼性を高めるために、複数の異なる方式のQKD信号を同一伝送区間で共存させることが想定される。東芝、NEC、NICTは「今般、2つの異なるQKD信号の多重伝送が実証できたことで、量子暗号通信の普及を後押しし、より安全な通信インフラの実現に貢献する」としている。
 本研究開発の一部は、総務省によるICT重点技術の研究開発プロジェクト「グローバル量子暗号通信網構築のための研究開発(JPMI00316)」によって実施された。

開発の背景
 QKD技術は、暗号通信に必要な“鍵”を情報理論的に安全に共有できる技術。その安全性は量子力学の原理により担保されており、伝送路中の盗聴行為を確実に検知することで通信を行う2者間で安全な鍵共有が可能だ。
 QKD技術により共有された鍵を利用した暗号通信を幅広い分野で活用し、将来の安全・安心なネットワーク社会を実現するためには、主要都市間レベルのQKDネットワークの構築が必要となる。QKDネットワークの構築に向け、現在、世界各地で潜在的な利用者向けにトライアル環境の整備・提供・運用試験が進められている。これらのネットワークは、鍵生成速度を最大化するため、単一光子レベルのQKD信号を理想的な条件で伝送する専用のダークファイバを利用し、データ通信用光ネットワークとは異なる運用ルールで管理される独自のインフラとして構築されてきた。しかし、専用インフラの場合、ダークファイバの確保や特殊な管理・保守手順を必要とするため導入・運用コストが高く、ネットワークのさらなる規模拡大や、ユーザ向けサービスの広域にわたる普及の制約となる可能性がある。
 QKDネットワークを広域かつ低コストに導入するためには、専用のダークファイバによる独自のインフラを構築するのではなく、通信キャリアにより広域展開されるデータ通信用光ネットワークに共存・多重化する形でQKDネットワークを実現するアプローチが効率的だ。特にQKDサービスの普及に向けて、Beyond 5G時代の次世代ネットワーク基盤として期待されるIOWN Open APNでも動作させることが重要となる。

本技術の特長
 今回の実証は、通信キャリアが運用する基幹系光ネットワーク環境を想定して実施したものとなる。IOWN Open APNの構成機器としてNECが提供するオープン光トランスポート装置「SpectralWave WXシリーズ」の光伝送装置を伝送路に接続して、通信キャリアの基幹系光ネットワークへの適用が想定される波長帯であるC+Lバンド対応ROADMシステムをNICT量子ICT協創センターが提供する試験環境に構築し(図1)、データ通信用の大容量光信号と2つの異なる方式のQKD信号を同一伝送区間に多重化した共存伝送を実施した。

図1:QKDリンクと大容量光伝送システムとの共存実験の構成。

 QKDの方式として、東芝は量子力学により担保された情報理論的に安全性が証明されているBB84(Bennett-Brassard 84)方式を、NECはデータ通信帯域での多重化や小型・低コスト化が容易であるCV(Continuous-variable)方式を採用した。2つの異なるQKD信号と、それに合わせて送受信される制御用光信号を、光伝搬方向が異なる2心の光ファイバそれぞれに収容した。さらに、通信キャリアの基幹系光ネットワークで実際に使用される環境を模擬するため、同一のファイバにおいて、CバンドおよびLバンドの波長帯全域に光出力+17dBmで、伝送速度47.2Tbpsに相当するダミーのデータ通信用光信号とQKD信号を多重化し、それぞれの信号の波長が干渉し合わないように波長を割り当てる制御をして、25kmの伝送を行った。
 東芝、NEC、NICTは「上記の条件下で、8時間連続で2つの異なるQKD方式による同時鍵生成に成功した。また、CバンドおよびLバンドの帯域内に配置した1波長あたりの伝送速度400Gbpsおよび800Gbpsの高速データ通信用の実信号をエラーフリーで伝送しながら、単一光子レベルのQKD信号と共存できることを確認した」とし、「今般の実証は、Open APNの基幹系光ネットワークの光中継伝送路上にQKD信号を多重伝送するもので、このたびIOWN Global Forumにて公開されたOpen APN Functional Architectureリリース3ドキュメントに新たに記載されたOne-span PtP Wavelength Pathサービス(Open APNの光中継伝送路に特定の波長の信号を挿入・分岐することを可能とするサービス)のユースケースとして位置付けられるものだ」と説明している。

 本実証結果は、IOWN Open APNとして将来展開が期待される基幹系光ネットワークにおいて、複数の異なる方式を同時に適用してより可用性の高いQKDを実現できることを示しており、高信頼かつ広域なQKDネットワークが低コストに導入できることが期待される。

今後の展望
 東芝、NEC、NICTは「今後もQKDネットワーク技術の研究開発を加速し、通信キャリアのオール光ネットワーク上でのQKDサービスの展開を実現するとともに、クラウドサービス・金融・政府系機関などの多様なユースケースでの応用を通じて安全・安心な情報化社会の実現をめざす」としている。

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